流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
 男の胸元にかくれた何かが頬にあたる。

 エミリアは服の上からなぞりながら尋ねた。

「これはなんですか?」

「ああ、幸運の金貨だ」

 男が胸の結び紐を外して小さな袋を取り出す。

「お守りだ」

 男が指につまんで見せたのは小さな金貨だった。

 焚き火の炎を反射して輝いている。

「十五の時に初めて戦場に出たときに持たされたものだ」

「まあ、そのような歳で」

「貴族の義務だ」

「こわくはありませんでしたか」

「こわかったさ」

 男は金貨を袋にしまいながらつぶやいた。

「だから生きてる。死ぬのはこわいし、人が死ぬのを見るのもこわい」

 男が再びエミリアを抱き寄せた。

「だからあんたを死なせたくないんだ」

 腕の中で女がつぶやく。

「不思議なものですわね」

「何が?」

「こうしているととても安らぎます」

 腕の力をゆるめると、エミリアがエリッヒを見つめていた。

「これが快楽の秘技というものですか」

「快楽?」

「違うのですか」

 男の本能が反応しそうになる。

 エリッヒは満点の星空を見上げた。

「早く寝ろ。明日も早いぞ」

 そうですわね、と女はエリッヒの胸に顔を埋めると、すぐに安らかな寝息を立て始めた。

 昼間、あんなに寝てたくせにな。

 エリッヒは、ほうっとため息をついた。

 エミリア・ファン・ラビッタ・オレ・アマトラニか。

 魔法の呪文じゃあるまいし。

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