流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
◇ 過去との決別 ◇
翌朝、目覚めるとまた一人だった。
寝台の上に起き上がって背伸びをする。
野宿とは違ってすっかり疲れも取れていた。
窓から下をのぞくと、エリッヒがジュリエと話をしていた。
話の途中で視線に気づいたらしく、ジュリエが右手を振ってこちらに微笑みを向けた。
エリッヒも顔を上げる。
「おう、おはよう」
「おはようございます」
ジュリエがエリッヒに会釈して去っていくと、下から男が声をかけた。
「支度ができたら出発するぞ」
エミリアはすぐに身支度を調えた。
外に出ると、エリッヒが馬の準備を整えて待っていた。
「昨夜の犬だが、けしかけたやつがいたらしい」
「ジュリエさんが聞いてきたのですか」
「ああ、どうやら、あんたはまだ狙われているようだな」
「わたくしが? なにゆえですの?」
「身代金目当てなら、犬に襲わせるのはおかしい。命を狙っていたってことになるな」
「まあ、おそろしい」
「どちらにしろ高貴な人間がお供を一人しか連れていないから狙いやすいんだろう」
黙り込んだエミリアの頭を男がなでる。
「心配するな。俺一人でも、守ってやるから」
顔が熱くなる。
エミリアは先に歩き出した。
「おい、馬はどうするんだ」
「街の中だけでも歩きます」
エリッヒがあわてて馬の綱を引いて追いかける。
街道沿いに宿場町を進んでいくと、床屋が営業を始めていた。
店先で亭主が男性客の髪を切っている。
エミリアが束ねただけの自分の髪に手をやりながらエリッヒに尋ねた。
「あのお店に寄っても良いですか」
「何か用か?」
「髪を整えてもらおうと思います」
「その必要はないだろう」
「今まで女官達にやってもらっていました。あなたがやってくれますか」
「俺が!?」
エリッヒは首を振った。
「できるわけないだろ。分かったよ。やってもらうといいさ」