流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
 エミリアが腕の中でつぶやく。

「すみませんでした」

 男は女の髪を撫でながらささやいた。

「心配だったんだ」

「何がですか?」

「女の誤解を解けるほど、俺も経験豊富じゃないんでね」

 エミリアが男の胸の金貨をそっとなでている。

 紅潮した女の額の産毛が愛おしい。

「まあいいさ、誤解が解けたなら」

 エリッヒはエミリアの頭を支えながらそっと口づけをした。

「熊のぬいぐるみにするんだろ」

「熊からはしませんわ」

 二人は見つめ合ったまま微笑みを交わした。

「いつも熊にはなんて話しかけるんだ」

「お願い事です」

「どんな?」

「言えませんわ」

「気になるな」

「なにゆえですの?」

「理由なんてないさ」

「では、わたくしも言う理由はありませんね」

 違う。

 エリッヒは心の中で否定した。

 好きになるのに理由なんてないってことだ。

 ただ、それを説明しようかどうか迷っているうちに、エミリアが安らかな寝息を立て始めた。

 すぐに寝ちまうんだな。

 理解し合う時間はたっぷりあるはずなのに。

 そんなに寝心地のいい枕なのかね、俺は。

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