流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
 そんな男の様子を見てエミリアが腕をつつきながら朗らかに笑う。

「さ、お食事にしましょうよ」

 川沿いの草原に座って買ってきた物を膝の上に並べる。

 丸パンを半分にちぎってチーズをのせた。

 料理とも言えない簡単なものだが、今の自分には充分なごちそうだ。

 青空の下、薄い雲を眺めながら口に入れる。

 おいしいものを食べている間は命を狙われていることをほんの少しだけでも忘れていられる。

「なあ、似合うぞ」

 男の脈絡のないつぶやきに女はリンゴを放って返した。

「いまさら遅いです」

 二人は笑い合いながら甘酸っぱいリンゴをかじった。

「いつかあなたに嘘を言わせてみせますわ」

「嘘を?」

「男の嘘には本当のことが詰まってるってジュリエさんに教わりました」

「そいつは手強い助言だな」

 食事を終えて二人はまた街道を歩いていた。

 宿場町の外れにある店の前でエミリアが立ち止まった。

 古着屋だ。

「おい、どうした」

「服を見ます」

「またかよ。物見遊山じゃないんだ。のんびりしている暇はないんだぞ」

「髪を切ったので、服も変えます」

「でも、さっきの金は全部使っちまっただろう」

 エリッヒの言葉を無視して女は店の中へ入ってしまった。

 仕方なくエリッヒも馬を店先につないでついていった。

 エミリアが店主に尋ねている。

「ここでは服を引き取ってもらえますか」

「古着屋だからね。もちろんだよ」

 前歯のない店主が大きく口を開けて愛想笑いを浮かべている。

 エミリアは今着ているドレスを売って古着と交換しようということらしい。

 床屋で経験した交渉をすぐによそでも応用できるところが大胆だ。

 エリッヒは商談の成り行きを見守っていた。

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