王女にツバメ

押し付けるように、ジャケットのポケットに突っ込む。

「将来の為にも必要でしょう?」

君はいつか知らない誰かと一緒になる。その時の為にもあって悪いものじゃない。

琉生は少し考えて、小さく何度か頷いた。

「わかった、俺が持っとくね」
「君以外に誰が持つの」

笑ってみせると、琉生もどこか安堵したように笑った。

それでいい。

じゃあね、と言って玄関で別れる。あたしは君がこれから誰の家に行くのかも、君の家がどこにあるのかも知らない。知ることが怖かったし、知らないでいる方が楽だった。

廊下の壁にもたれる。
もうとっくに、好きになっていた。

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