『スーパームーン』 ー マスター編② ー
第3話 狂犬
俺はあの店に入った時から刺すように睨む視線に気がついてた。
気づかない振りをしていたが、その視線を送っていたのは俺の良く知っている男だ。
ボクサー時代のライバルで『狂犬』と呼ばれた男。
ラフファイターでゴングと同時に狂ったようにパンチを繰り出し、相手が倒れるまで殴り続ける。
正に「狂犬」だった。
俺と奴は新人王戦で戦った。
奴は5戦5勝5KO、俺は6戦6勝3KOの成績だった。
試合前から奴は吠えていた。
ゴングがなると予想通り強引にパンチを入れてくる。
だが俺はフットワークと防御には自信があったので、奴の繰り出すパンチを避けつつ、足を使って奴を翻弄した。
奴のパンチは一発もまともに入らない。
奴は頭に血が登ったのか徐々に大振りのパンチになっていった。
俺は避けながらも的確にパンチを奴の顔に入れていく。
3Rが終わった時点で大きくポイントに差がついてるのは誰の目にも明らかだった。
4Rが始まった。
奴は大きく肩で息をしている。
大振りのパンチが体力を奪っていたし、元々奴には持久力はなかった。
常に早いラウンドでKOしていたからだ。
俺は攻勢に転じた。
足を止めて得意のジャブを奴の顔に小刻みに突き刺す。
やがて奴は鼻血を出して顔面血塗れになっていった。
奴は苛立って更に大振りのパンチを打ってきた。
俺は大振りのパンチをスウェイバックで避け顔面に早いジャブをダブルで入れる。
奴がのけ反り戻って来た所に渾身の右ストレートを顎に入れた。
手応えは抜群だった。
奴がゆっくりと前のめりに倒れる。
もう動かなかった。
そのままテンカウントが入り、俺のKO勝ち。
奴はそのまま引退した。
顎が砕けたらしい。
それ以来会ってなかったが奴が俺を恨んでいるのは明らかだった。
「あれだけ厳重じゃ忍び込むのは無理だね」とマサが言った。
俺は店の向かいのビルを見上げる。
「暫く張り込むか?」と俺は見上げたまま言った。
「このビルに?」とマサが聞く。
「悪いがマサ頼む。俺はあの店に通ってみる」
「大丈夫か? かなりヤバそうだけど」
「確かにな。色んな意味でヤバそうだ。でもやらないと綺麗な女達を救えない」
「拳ちゃんはいつもそれだ。(綺麗な)女の為なら命も惜しくないみたいだね」
俺はまたニヤリと笑って
「分かっているなら協力してくれ、なあ、マサ」と言った。
マサは気乗りしないようだったが何とか承知してくれた。
俺は自分のマンションに戻って考えた。
あのカジノバーの女達は借金の為に働かされていると思う。
多分軟禁状態で外にも出れないのだろう。
あのブラックジャックの女は俺に何かを感じたのか、わざと勝たしてくれた。
あの女は後で何らかの制裁を加えられたかも知れない。
早く助けて出してあげなくてはならない。
しかし、奴がいたのには驚いた。
面倒な事になりそうだ。
俺は煙草に火をつけ眼下の街を見下ろしていた。
俺はあの店に入った時から刺すように睨む視線に気がついてた。
気づかない振りをしていたが、その視線を送っていたのは俺の良く知っている男だ。
ボクサー時代のライバルで『狂犬』と呼ばれた男。
ラフファイターでゴングと同時に狂ったようにパンチを繰り出し、相手が倒れるまで殴り続ける。
正に「狂犬」だった。
俺と奴は新人王戦で戦った。
奴は5戦5勝5KO、俺は6戦6勝3KOの成績だった。
試合前から奴は吠えていた。
ゴングがなると予想通り強引にパンチを入れてくる。
だが俺はフットワークと防御には自信があったので、奴の繰り出すパンチを避けつつ、足を使って奴を翻弄した。
奴のパンチは一発もまともに入らない。
奴は頭に血が登ったのか徐々に大振りのパンチになっていった。
俺は避けながらも的確にパンチを奴の顔に入れていく。
3Rが終わった時点で大きくポイントに差がついてるのは誰の目にも明らかだった。
4Rが始まった。
奴は大きく肩で息をしている。
大振りのパンチが体力を奪っていたし、元々奴には持久力はなかった。
常に早いラウンドでKOしていたからだ。
俺は攻勢に転じた。
足を止めて得意のジャブを奴の顔に小刻みに突き刺す。
やがて奴は鼻血を出して顔面血塗れになっていった。
奴は苛立って更に大振りのパンチを打ってきた。
俺は大振りのパンチをスウェイバックで避け顔面に早いジャブをダブルで入れる。
奴がのけ反り戻って来た所に渾身の右ストレートを顎に入れた。
手応えは抜群だった。
奴がゆっくりと前のめりに倒れる。
もう動かなかった。
そのままテンカウントが入り、俺のKO勝ち。
奴はそのまま引退した。
顎が砕けたらしい。
それ以来会ってなかったが奴が俺を恨んでいるのは明らかだった。
「あれだけ厳重じゃ忍び込むのは無理だね」とマサが言った。
俺は店の向かいのビルを見上げる。
「暫く張り込むか?」と俺は見上げたまま言った。
「このビルに?」とマサが聞く。
「悪いがマサ頼む。俺はあの店に通ってみる」
「大丈夫か? かなりヤバそうだけど」
「確かにな。色んな意味でヤバそうだ。でもやらないと綺麗な女達を救えない」
「拳ちゃんはいつもそれだ。(綺麗な)女の為なら命も惜しくないみたいだね」
俺はまたニヤリと笑って
「分かっているなら協力してくれ、なあ、マサ」と言った。
マサは気乗りしないようだったが何とか承知してくれた。
俺は自分のマンションに戻って考えた。
あのカジノバーの女達は借金の為に働かされていると思う。
多分軟禁状態で外にも出れないのだろう。
あのブラックジャックの女は俺に何かを感じたのか、わざと勝たしてくれた。
あの女は後で何らかの制裁を加えられたかも知れない。
早く助けて出してあげなくてはならない。
しかし、奴がいたのには驚いた。
面倒な事になりそうだ。
俺は煙草に火をつけ眼下の街を見下ろしていた。