熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「絵には描いた人の心が映る。……こんなふうに自分を描いてくれる人を、手放していいのかって、この絵を見て強く思ったわ。それでサムットの前で、思わず泣いてしまったの」
恥ずかしいと思ったけれど、止められなかった。絵にこめられた愛しい気持ちが、私に向かってまっすぐ伝わってくるようで。
「詩織……」
「だから、私も絵で伝えようって、新作を描くことにしたわ。妊娠初期はつわりで絵の具にすら触れなかったけれど、安定期に入る直前くらいから落ち着いて……一気に描きあげた。そして、できるだけあなたの目に触れやすいよう、梗一の職場から近い六本木のギャラリーに絵を置いてもらうことにして――」
そこまで言いかけた私を、梗一は突然ガバッと抱き寄せた。驚いて目を瞬かせていると、耳元で感極まったような声が震える。
「ありがとう。俺にもう一度チャンスをくれて……」
私はそんな梗一がいじらしくて、彼の広い背中に手を回してぎゅっと抱きしめる。
「そんな……悪いのは、勝手に逃げた私よ」
「いや、きみをお姉さんに任せて放っておいた俺が悪い」
「……そんなことないってば」
何度否定しても、梗一の罪悪感は拭えないらしく不安げな瞳をしていた。
そんな彼が、さらにショックを受けてしまいそうな事実があるのだけれど……話しても大丈夫だろうか。少々心配になりながら、私は遠慮がちに切り出した。