熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~

「……そう? 私は今のあなたの方が、可愛らしくていいと思うけど」

詩織はそう言って、悪戯っぽく微笑む。

可愛らしいだなんて評価はまるで不本意だが、いつになく無邪気に笑う詩織を見ていたら、それだけで何もかも許せる気になった。

「可愛いのは詩織の方だよ」

囁くように言って甘い視線を送れば、詩織は困ったように視線を泳がせる。

そのうぶな仕草に男心を掴まれてしまった俺は、たまらず彼女の頬にチュッと口づけた。

「ちょっと……やめてよ、こんな場所で」

みるみる頬を赤くした詩織が、俺を睨みつける。

「じゃあどこならいい?」

「え?」

「一度ホテルに戻らないか? 濡れた服を変えたいし、シャワーも浴びたい。……詩織にも、もっと触れたい」

真剣な眼差しで、彼女を射抜く。頭上から照りつける日差しが、俺たちの肌と心をじりじりと灼いていく。やがて詩織は、何かを怖がるように瞳を伏せて言った。

「あなたに触れて、もし恋に落ちてしまったら……私、今までのように絵が描けるかしら」

詩織は一度失恋を経験して、それ以来恋愛とは無縁の生活を送っていたため、臆病になっているのだろう。

でもそんな心配は無用だ。俺は、彼女を傷つけたり悩ませたりするつもりは一切ない。

全力で愛を注ぐし、仕事のことだって誰より理解し、支えていくつもりだ。



< 51 / 181 >

この作品をシェア

pagetop