熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「あなたは私の絵が好きなんでしょう? だったらわかるはずよ。私がここを離れられないってこと」
「ああわかるさ。わかるけど……! 俺にも、事情があるんだよ」
梗一は、一度持った指輪をトレイに戻し、悲痛な声を漏らした。
「事情って何?」
「……ここでは話せない」
「そんな……。それなら、私だって、指輪を受け取ることなんてできっこないわ」
それきり、私たちの間に気まずい沈黙が落ちる。
私たちの口論を見ていたスタッフは青ざめていて、せっかく指輪を選んでくれた彼女に申し訳なくなった私は梗一に告げる。
「出ましょう、お店の迷惑になる」
「ああ、そうだな……。お騒がせしてすまない」
梗一が謝罪すると、私たちは二人で黙礼し、店の外に出た。
けれど行くあてもないし、この気まずい雰囲気をどうしたらいいんだろうと考えあぐねていたら、梗一が先に口を開いた。
「どこか静かな場所で話そう。それでもし詩織が納得してくれたら、結婚の話を前向きに進めたい」
「ええ。話すのは、いいけど……」
でも、結婚の話を前向きに進めるというのは、結局私を日本に連れ帰るということでしょう?
いくら彼の事情を知ったところで、私がその選択をすることは……。