熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~

私は苦笑を漏らし、ぎゅっとシーツを抱きしめる。梗一の香水によく似た香りが私の鼻腔と涙腺を刺激し、私は彼と別れてからずっと堪えていた涙を瞳に浮かべた。

「梗、一……っ」

その名を呟くだけで、胸がちぎれそうに痛い。

彼が私に指輪を贈ろうとしてくれているとわかったとき、本当はうれしかった。私だって、彼と結婚して幸せになる道を、少しも考えなかったわけじゃないのだ。

ただ、今の生活を捨てる勇気がなくて。

ひとりの男性に、自分の人生を預ける覚悟もなくて。

そんなしがらみを全部無視できるのなら、彼の胸にまっすぐ飛び込みたいのに……現実は、そうもいかなくて。

私は冷静なふりをして、彼の一途な想いから目をそらして逃げたんだ。

「もう、恋なんて本当に……いらない……っ」

私は悲痛な声を漏らしながらシーツに顔を押し付ける。

せっかく乾いていたシーツにみるみる涙の染みが広がったけれど、そんなことを気にしていられる余裕なんかなかった。

日が落ちて辺りが暗くなった後も、アトリエには私のすすり泣きがずっと響いていた。


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