熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
私は窓を開けて蝶を逃がしてやると、気を取り直してシーツの片づけを再開する。
そして、すっかり乾いたシーツを軽く畳んでいる途中、嗅いだことのある香りがふわりと鼻先をかすめ、心臓がドキンと音を立てた。
……どうして、梗一の香水の香りが?
「ちゃんと洗濯したのに……」
私は確かめるように、シーツに顔を近づけてスンと鼻を鳴らす。するとやっぱり同じ香りがして、胸がきゅっと締め付けられる。
でも、いったいこの香りは……。そう思いかけて、ハッとする。
確か、図鑑で見たことがある……梗一の纏っているような、ムスクに似た香りを隠し持つ、魅惑的な蝶がいるって……。
私は本棚に近づき、記憶を頼りに一冊の図鑑を手に取った。
そして、目当ての蝶のページを見つけ、納得する。そこには、ついさっき見たばかりの黒く透ける美しい羽の蝶――ジャコウアゲハがいた。
そっか……この香りは、さっきのあの子がシーツに止まっていたときに付いたのね。
……それにしても。
「なんでこのタイミングで、香りを残していくかな……」