月の記憶、風と大地
従業員が交代で子供のお迎えに行く。
大変なことには違いないが、微笑ましい関係だと弥生は思う。


弥生自身の幼い頃は、世間から見れば悲惨なものに入るかもしれない。


弥生は姉に育ててもらった。


両親はいたが関係は破綻していて喧嘩やいざこざが絶えなかった崩壊家庭であり、両親は子供のいる家にはあまり帰らず、姉妹は二人で過ごすことが多かった。


児童相談所、警察の人間が発見したとき赤ん坊の弥生は姉が面倒をみていたという。

それからは施設と実家を往復して子供時代を過ごし、姉に恩を感じている弥生は甥と姪を喜んで可愛がった。

弥生の接し方が正しかったかどうかは分からない。
しかし気をつけたことがあった。

それは学校から帰ると家で待ってくれている人がいるということだ。

おやつを一緒に食べたり作ったり。
学校の出来事を訊いたり。
友達が遊びに来た時も一緒に遊んだり。

弥生にとっても良い経験だったと思っている。



「津田さんが再婚したら、おれらは用なしになるかもしれませんがね。それまでは穣くんのお迎えを楽しみにしてます」
「後台さんは、保育士さんが目当てでしょ」


静京香が掃除をしながらボソリと呟く。


「おや。妬いてくれるんですか、京香ちゃん」
「本当におめでたい人ですね。あと名前で呼ぶなと何回云ったら、わかってくれますか」


静京香がワイパーの柄を折りそうな勢いである。

この二人は仲が良いのか悪いのか。

後台のからかいに静の方は鬱陶しそうにあしらうが、嫌な感じではなさそうだ。
こういう言葉のキャッチボールで、コミュニケーションが成り立っているのかもしれない。


「就業時間は私語はつつしめよ。じゃあちょっと行ってくる」
「いってらっしゃい」


残された三人は津田を見送ると店長の言い付け通りに私語をすることもなく、それぞれは黙々と役割をこなして行った。


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