月の記憶、風と大地


「やっぱり。歓迎会という名のお誘いというわけですか」



静の予感は的中したようだ。
後台も烏龍茶の入ったグラスを口に運ぶ。



「おれが出会ってきた女とは違う」



店舗グループ内でも津田はイケメンだと騒がれているし、実際に彼は美男だ。

それなりの恋愛はしてきた。

仕事はもちろん優秀で羨望と尊敬、嫉妬の眼差しを受けている。
以前、夜の公園で家へ来ないかと誘った事があったが、それはどこか見下していたからだ。

浮気された女など簡単だと。

だが弥生は違った。



「なあ後台、おれはお子さまか」
「津田さんは大人ですよ。でも弥生さんからみたら坊やでしょうね」
「ガキは嫌かな」
「お子さんは好きですよ、弥生さん。穣くんも可愛がってますから」
「穣か。息子に嫉妬するな」


津田は焼き鳥をつまんだ。



「津田さんはモテますよ。ただ……」
「なんだ?」
「好きな人にモテようとする努力が足りませんね」


後台も焼き鳥をつまむ。


「まずその自信を置きましょう。捨てなくても良いですから」
「おれはそんなことは思ってないぞ。……まあ、実際はだな」


津田は烏龍茶を飲み干した。



「弥生さんは素敵だが、恋愛なんてする気にはなれんよ。穣もいるしな。第一、面倒だ」



津田はコップをテーブルに置いた。




「見合いの話、引き受けてきます」



後台が云った。



「まあ、おれが断られることは間違いないんですが」
「静さんが泣くぞ」



津田が焼き鳥を口に運び、その言葉に後台は微笑する。


「泣いてくれますか、静さん」
「嬉し泣きか、悲しい涙かどちらかだろうがな」


後台のいつも笑顔に見える顔に複雑な病が浮かぶ。
その表情を愉しげに眺め、時間は流れて行った。

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