その瞳に私を写して
彼の想い
「おじさん、これ下さい。」

麻奈は会社帰りに、夕食の買い物をした。

久しぶりの買い物に、トマトを多く買いすぎた。

「こんなに買って、どうするんだか。家に帰っても一人なのにね~。」

家までの帰り道、麻奈は、独り言が自然に出てくる。


勇平が、家を出てったあの日。

麻奈は一晩中起きていて、勇平の帰りを待っていたが、とうとう彼は戻ってはこなかった。


家の前に着くと、いつの間に変なクセが付いてしまったんだろうか。

決まって、自分の家の窓を見てしまう。

誰もいないはずなのに、明かりが灯っているのを期待してしまうのだ。


「ただいま~。」

そして麻奈の悪い癖が、また一つ出る。

誰もいないのに、”ただいま”と言う癖。

元来、麻奈は一人暮らしをしてから、”ただいま”なんて言ったためしがないはずなのに。


麻奈はいつものように、スーツからジーパンに着替えて、音楽を聴きながら夕食を作る。
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