お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
途切れ途切れに呟く私。
いくら専属の主従関係を結んだからといって、私にアレンの人生を左右する権利はない。
だが、私はメルさんの質問の状況を頭にイメージするだけで、なんとなくモヤモヤするのだった。
ローズピンクの瞳を緩く細めた彼は、悶々と考え込む私を見てくすり、と笑い、ティーセットを片手に立ち上がる。
「俺は、出来れば弟子に同じ轍を踏ませたくないが、君とアレンの主従関係の根底にあるものが純粋な信頼以上のものになっているのなら…君たちの触れ合いは、すでに恋人のそれの代償行為となっていると思うけどね。」
「??どういうことですか…?」
「ふふ。アレンが自分から離れていくことが嫌だと思うのは、幼馴染みがいなくなるからという理由だけではないでしょ?、ってこと。…その先は自分で考えなさい。俺に不躾な質問をしたお返しだよ。」
ひらり、と手を振ったメルさんは、ティーセットを片手にコツコツと歩き出した。
メルさんに急に年相応の大人っぽいことを言われても、こっちは何のことだかさっぱり分からない。
「そうだ、ニナ。だいぶ教養は身についてきたし、午後はレッスンの仕上げといこうか。」
「え?仕上げ…って、何のです?」
きょとん、としたその時。
いたずらを思いついたようなメルさんの瞳が、ふっ、と細められた。
「決まってるでしょ。悪役令嬢の仕上げだよ。」
そして、くすり、と笑ったメルさんは、スイッチを切り替えるように、妖麗な黒い笑みを浮かべたのだった。