この想いを言葉にのせて



 パンダと2人、取り残された部室に再び静寂が訪れた。
 席に座ったパンダはわたあめを食べずにずっと嬉しそうに見つめている。


「それ食べないの?」
「食べるよ……チルチルもいる?」
「別にいい」
「美味しいよ?」
「じゃあ、ちょっとだけちょうだい」
「うん」


 目をきらきらとさせてわたあめを指先でつまんでちぎると、それを私の方にさしだしてきた。


「はい」
「ありがと」


 受け取ろうとすると、私の手を避けるようにパンダはすっと手を引っ込ませた。


「くれないの?」
「そうじゃなくて」
「なに?」


 首を傾げて聞くと、パンダは「あーん」と言って私の口元にちょんっとわたあめをくっつけた。思いもしなかった行動に思わず顔に熱が集中する。


「あーん、溶けちゃうよ」
「……っ」


 心臓がうるさいくらいに音を立てる。口元につけられたわたあめのせいで赤くなった顔を隠すこともできないまま、もうどうにでもなれっと半ばヤケクソでわたあめをパクリと口にした。


「おいし?」
「……おいしい」


 パンダに食べさせて貰ったおかげで何十倍も美味しく感じる。悔しい。
 そんな私の気持ちも知らないパンダは嬉しそうに、このわたあめのような柔らかい笑顔を浮かべた。甘ったるくて簡単に溶けてしまうくせに、私の心にずっとまとわりつく。
 この厄介で、どうしようもなく愛しい気持ちをいつかパンダに二文字の言葉で伝えられる日がくるのだろうか。


「ねえ、パンダ」
「なに?」
「私も実はわたあめ好きなんだ」
「僕と一緒だね」
「うん、パンダと一緒」


 私が笑うとパンダは対照的に真顔でじっと私のことを見つめてきた。
 ドキッとして「どうしたの?」と聞くと、パンダの指先が不意に、私の頬に触れた。


「僕、チルチルの笑顔好き」
「………あ、りがと…」


 その日パンダの口から初めて聞いた「好き」の二文字が、しばらく私の鼓膜から離れなかった。



20160722
20190412


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