はずむ恋~見つめて、触れて、ときめく~
ふたりはこれから面会の予定があるようで、支配人は腕時計で時間を確認していた。多分もうすぐに行かれければならなく、私と話をしている時間はない。


「横川さん。悪いけど、話の続きは今度ゆっくりさせてもらえる?」

「はい、私はいつでも大丈夫です」


私の返答に支配人は安心したような笑みを浮かべて軽く手を挙げ、人事部長とホテルを背にして歩いていく。

私はふたりに向かって会釈してから、再度ホテルと向き合って胸に手を当てて軽く息を吐く。覚えていなかったようだけど、写真を見てもらえなかったけど、話は出来た。

そして、今度ゆっくり話をしてくれるとも言ってくれた。忙しい人だから、今度がいつになるかは分からないけれど、絶対話をする時間を作ってくれる人だと思う。

その日までがんばってと言われたことをがんばろう。札幌でのことを覚えていなくても、今の私を見てもらえればいい。

微かに芽生えた憧れに近い恋心を奮い立たせるよう、ひとり大きく頷いて足を前に出す。爽やかな春の風が前髪を揺らした。
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