はずむ恋~見つめて、触れて、ときめく~
予想外のことでこの部屋に入ってからずっと呆然としていたが、支配人が前に座って、ここで食事という事実に緊張感が出てきた。


「ああ、ここなら話をするのにも静かでいいでしょ? 平日だから空いているだろうと思ったけど、今日空いていて良かったね」


確かに話するのにはふたりだけの空間だから、静かでいいけれど……でも、それがスイートルームになるなんて支配人はどういった思考回路をしているのだか。

私は彼の言葉に微妙な笑みで頷いた。支配人はそんな私をじっと見据えて、穏やかだった笑顔を少々険しくした。


「不服そうに見えるんだけど、なにか不満でも?」

「えっ? いえ、全然! こんな素敵なお部屋でルームサービスをいただくなんて初めての経験でビックリしているだけです。さすが支配人だなと感心しているというか」

「この部屋に入るの初めてだった?」

「はい。研修最終日にここでの清掃をする予定になっていますので」

「なるほどね。でも、うちのホテルで一番いい部屋になるから、掃除よりも使ってみたほうがいい」


使うって、どんなふうに?

目をぱちくりさせる私を支配人は笑った。
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