はずむ恋~見つめて、触れて、ときめく~
「どこか痛いところはございませんか?」


支えてくれた人は私をゆっくりと階段に立たせて、また落ちないようにと軽く背中に手を置いてくれていた。

「どこも痛くないです」としっかりとその人の顔を見て、私は胸を高鳴らせた。さっきまで血の気が引いていたのに、数秒で血色の良い顔になっていたであろう。

その人がかっこいいお兄さんだったからだ。


「良かったです。足元に気を付けてくださいね」

「はい、ありがとうございます……」


にこやかに笑って、階段を降りていく背中をぼんやりと眺めた。

その頃の私は同級生の男子に興味がなく、テレビで見る俳優にいつもときめいていた。大人でかっこいい男性が好みだった。

でも、中学生の私が現実で大人の男性に出逢う機会などないと悟っていた。

だから、この一瞬の出逢いが現実ではないように思えた。自分に向けられたあの笑顔が脳裏から離れなく、ふわふわとした気持ちの中で出席した披露宴では時々上の空になってしまっていた。


「藍果、落ちそうになったときにどこかぶつけた?」

「ううん、大丈夫」
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