はずむ恋~見つめて、触れて、ときめく~
年齢のわりにしっかりしていると言われていた私が珍しくぼんやりする様子は母親でもおかしく見えたようだった。

好みの人に出逢うとこんなにも尋常でいられなくなるなんて……。

でも、相手はここのホテルマンで、私はただの客。好みであろうと、もう顔を見ることも話すこともない。まして、東京在住の私からしたら、北海道は遠すぎる。

恋い焦がれる前に、出逢いは幻だったと思うことにしよう。あの人が私を助けてくれたのは私が客だからで、特別な想いはなにもない。

最後のデザートを食べて、うんと大きく頷き、自分を取り戻した。

しかし、そんな私に彼は翌日声を掛けてきた。


「おはようございます。その後、お変わりはございませんか?」

「おはよう……ございます。はい、元気です」


朝食会場となっていたレストランの入り口に立っていて、ひとりひとりに朝の挨拶をしていた。

前日の出来事を覚えていてくれたことは、恥ずかしくもなったが、嬉しくもなった。

それに毎日たくさんの利用者がいる場所なのに、ちゃんと顔を覚えていることをすごいと思った。
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