やっぱ、お前は俺じゃなきゃダメだろ

若奈と風見が同時にこの場を去って、要と朋世は二人きりになった。
朋世は要の腕を掴んで、(なか)ば強引に歩き出す。

カフェから一本入った路地の中間でとまる。
自転車がやっと走れるくらいの細い路地だった。
朋世は少し乱暴に彼の腕を離した。
要に対して怒っていたからだ。

「何であんなことしたの?」

「別に……」

要の太々(ふてぶて)しい態度に朋世の堪忍袋の緒が切れる。
気付けば、彼の頬を思いっきり平手打ちしてしまっていた。

「痛ぇ……」

要は苦痛に表情を(ゆが)ませ、自らの頬を優しくさする。
こんなに強く人を叩いてしまったのは初めてで、朋世の手はジンジンと(しび)れた。

「若奈、泣いてたじゃん」

「自業自得だろ」

「アタシの為にしたの?」

「そんなんじゃないし」

「それなら良かった。アタシはそんなの望んでない」

朋世は要がしたことに腹を立てたまま彼の前から去る。
痺れた右手が“これで良かったのか?”と自問しているみたいに感じたが、今の彼女にその答えを出せる余裕は無かった。
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