仮想現実の世界から理想の女が現れた時
転勤
ひと月後


俺は、人事課の横の会議室で、住所変更や通勤経路の届け出などの書類を書き上げた後、朝礼までの空き時間にスマホを取り出す。


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7月2日(月)

転勤になり、今日から新しい職場です。
不安はありますが、結果を残せるよう、がんばろうと思います。

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今朝の抜けるような青空の写真と共にアップする。

俺はスマホをしまって、システム営業部へと向かった。

「名古屋支店から本日付けで赴任して
参りました佐久間悠貴です。
このシステム営業部の売上を底上げする
ためにきました。
だから、私は皆さんと仲良くするつもりは
ありません。
ありませんが、売上のためのサポートは全力で
行なっていきます。
皆さんも全力で売上に貢献してください。」

俺はあえて厳しい挨拶をした。

社長の息子だからこの地位にいると思われないように。

俺は、入社以来、素性を隠して働いていたが、支店長になった事で、古参の社員たちに気づかれてしまった。

父は、離婚前にはよく、労いの意味を込めてホームパーティに社員たちを招待していたから、幼い俺の相手をしてくれた人たちも少なくない。

母は、俺を出産するまで、うちの会社の総務で働いていたので、母の旧姓はもちろん、両親の馴れ初めまで語れる人までいる。

支店長になり、本社での会議に出席するようになると、母にそっくりな容姿から、名前を見て、納得する社員が何人もいた。

特に、役員に…

まあ、それをあえて言いふらす役員もいないが、秘書に漏らせば、秘書から総務に、総務から各事務職に伝わる事は想像に難くない。

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