仮想現実の世界から理想の女が現れた時
「部長…」

瀬名に見つめられて、鼓動が忙しなくなる。
胸が締め付けられて、声が喉に詰まって、返事もできない。

「好きです…部長。」

っっ!?
これ以上ない幸福感は、俺を夢見心地にする。

「俺も好きだよ、暁里。」

まだまだ、俺の片思いだと思ってた。
長期戦で勝負をかける覚悟をしたのは、ほんの一週間前のことだ。

俺は今度は水なしで口づける。

触れるだけの軽い口づけ。

俺はそのまま瀬名を抱きしめる。

「今夜の事は、ちゃんと覚えてろよ。」

俺は暁里を抱きしめながら、髪を撫でた。

撫でながら、思う。

こいつのことだ。
明日になれば、忘れてるかもしれない。
忘れなかったとしても、夢で片付けるに違いない。

俺は、一旦、瀬名をベッドに寝かし、外に出た。

タクシーに戻り、運転手に詫びる。

「すみません。
お待たせして申し訳ありませんが、時間が
かかりそうなので、待っていただかなくて
大丈夫です。
ありがとうございました。」

俺は料金に少し上乗せして支払い、タクシーを返すと、瀬名の部屋に戻った。

皺にならないようジャケットを脱ぎ、ネクタイを外すと、俺はすっかり夢の世界の住人となった瀬名を抱きしめて眠る。


暁里、愛してる…



< 79 / 227 >

この作品をシェア

pagetop