仮想現実の世界から理想の女が現れた時
今日は午後から暁里と外回りに出た。

「瀬名、分かってるとは思うけど、
仕事中は、あくまで、上司と部下だから。
けじめはちゃんとつけような。」

「はい。」

俺を見上げて素直に返事をする暁里がかわいくて、つい前言撤回したくなる。
もちろん、それがダメなことは十分分かってるんだけど。


17時。

俺たちが外回りから帰ると、また、石原が瀬名の所へやってくる。

「瀬名さん、おかえりなさい。」

そう言って、今度は菓子だと思われる箱を1箱、暁里の席に置いていく。

「え? あの、石原さん?」

暁里は呼び止めるが、

「外、暑いし、疲れますよね。
仕事しながら、食べてください。」

と微笑んで去っていく。

暁里は手元の箱に視線を落とし、石原を眺め、諦めたようにため息を吐いた。

「何? あいつ?」

隣の田中が暁里に尋ねる。

「分かんない。
金曜日の歓迎会から、懐かれてるみたい。
今朝も缶コーヒーくれた。」

ふぅっ

俺がため息を吐くと同時に、田中もため息吐く。

だよな。

俺は思わず田中に共感する。

「瀬名、お前、認識が間違ってる。
あれは、懐かれてるんじゃなくて、
口説かれてるんだ。」

田中が暁里に説明する。

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