君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 そんなの、茜から逃げてるだけじゃないか。


 創はずるい。俺にはないものを全部その手に持っているくせに。それを享受しようとせずに、逃げているんだ。


 ずるいよ、創。

 でも、俺は。


 茜を思う気持ちだけは、この熱く激しい何かだけは、創と競って負けない唯一だと、このときそう思っていた。



 それが、これからの歯車の方向を変えていくだなんて知る由もなく。

 俺はただただ、茜が好きだった。

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