君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

Side S 【思慕】

 木曜日の夜、1人暮らしをしているおれの家で、飲んでいた茜はかなり上機嫌だった。


 いつもは、酔っ払った茜の相手をするために、自然と酒量をセーブしているはずのおれも、上機嫌な茜に勧められるまま、今日はかなりの量を気づけば飲んでいた。


 この街では有名な『Parks』で、タケがライブを出来るようになったことを、とても喜んでいた茜の口から出る話は、タケのことが中心で、特に出会ったばかりの頃の話をいつまでもしていた。


 そう、出逢った当初のタケは、

 何も手を加えていない、さらさらの黒髪で、重たそうな勉強道具がたくさん詰め込まれた、黒い鞄をいつも持ち歩いていた。

 高校受験のために通っているのだろう塾へ行く道の途中で、茜の歌に聞き入っていた、まじめそうな子どもと、いつの間にやら交流を図るようになった。

 その子どもは、ある日いきなりピアスを空け、髪の色を、当時の茜と同じようなピンクブラウンに染めた。
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