君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
人に深入りをして傷つくことを恐れ続けていたおれは、誰に対しても優しくできる反面、それ以上が誰に対しても出来なかった。
けれど、茜の前では不機嫌な自分も、泣いている自分の心も見せられるような気がした。
最も、茜を襲った不幸によって茜の心が傷ついてしまってからは、あえてそんなものを見せる気には、ならなくなってしまったのだけれど。
それでも、おれにとって茜は唯一だったんだ。
そんな茜を、一時の熱い思いで失うわけにはいかなかった。
おれは、おれのとなりで大口を開けて笑うあの子が特別だった。
あの子が動くたびにゆれる長い髪の毛も。
あの、魂の叫びのような泣き声を聞いた、その瞬間も。
いつだって振り回されていたけれど、何もかも大切だったんだ。