君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
 そんな自分とは対照的に、茜はいつも天真爛漫な笑顔の子どもだった。

 ころころと変わる茜の感情に振り回され、出会った当初はおれは実は茜がすごく、苦手だった。


 けれど。茜はいつだって、おれがどれだけうじうじと考えていたとしても。



「しかたないなぁ。そうは」


 そう笑って、おれにいつだって手を差し伸べてくれた。笑いかけてくれた。



 だから、おれは茜だけはおれを嫌いにならない、唯一だと思って、信頼できる「好き」になれる、たった一人だと、思ったんだ。

 そして、嫌われたくない唯一の存在となった。


< 302 / 395 >

この作品をシェア

pagetop