約束のエンゲージリング


確かに若女将が言うように彼はついてきてくれたが、理由は違う。

ただ単に兄として迷子の心配しているだけ。
実際に前科だってある。







それなのに手は繋がれたまま、長い渡り廊下を無言で歩く。

この旅館には同じような離れがいくつかあるようでそれらの部屋は1つの長い渡り廊下で本館まで繋がっていた。





時折同じように離れに泊まっている人とすれ違うとその度に彼の手に力が入る。

いつかのショッピングモールと違って野蛮な人なんている筈ないのに、心配性もここまで来ると呆れてしまう。









「マサ兄、そんなに強く握らなくても迷わないから。」

『千佳、ここではその呼び方はやめよう。何処で誰に聞かれてるか分かんないから。それと、、もっと自覚して。さっきから男性客とすれ違う度に視線が痛い。』

「そりゃ無言で手を引かれて歩いてたら視線だっていくよ。それに、、なんだかマサ兄怒ってるみたいだし。本当は部屋でゆっくりしたかったんでしょ?だから1人でいいっていったのに。」

『呼び方。』

「、、、。」








私の話は聞いてくれないのに、呼び方は徹底してくる彼に苛立ちを覚える。


今日の彼は変だ。





普段はもっと優しくて穏やかな人なのに、旅館に着いた途端イライラしていてオーラもピリついている。



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