約束のエンゲージリング
俯いて2人から視線を逸らすと、女性が焦ったように声を掛けた。
「っ、、私ったら場所も弁えずにごめんなさいっ、、。こんな所でする話じゃなかったよね。気分を悪くさせてごめんなさいね、、えっと、、そう言えばお名前聞いてなかったわ。可愛いスタッフさんの。お名前、教えて?」
「あ、、いえ、、こちらこそ立ち聞きしてすみませんっ、、私、岩田千『岩田さん、悪いけど一件配達に行ってきてもらえる?作業場に請書があるからお願いね。』
申し訳なさそうに眉を下げながら名前を聞かれ、咄嗟に答えようとすると彼が私と女性の間に立ち言葉を被せた。
まるで私から女性を隠すような仕草に胸の奥が痛み出す。
追い出されるように背中を押され、目が合う事なく作業場と店の境目のドアを閉められた。
それがショックで請書と花束を持ち、作業場を飛び出すように走って車に乗り込んだ。
車内で1人きりになると我慢していた涙がボロボロとこぼれて止まらない。
今頃2人でどんな話をしてるんだろう。
考えたくないのに、想像せずには居られない。
幸い、配達先は少し距離のある所で運転しながら人目も気にせずに声を出して泣いた。
配達先から店に戻る頃にはちゃんといつもの私に戻るから今だけは許して欲しい、、。
じゃないとこのドス黒い感情を彼にぶつけてしまいそうだから。