ブラック研究室からドロップアウトしたら異世界で男装薬師になりました
《フロウ(浮き上がれ)》
 男性の声が響いた直後、全身が温かいものに包まれた。ふわりと浮き上がった体が、伸びてきた腕に抱きとめられる。落ちな、かった……?
 私はおそるおそる目を開き、ギョッとした。アクアマリンの瞳がこちらを見下ろしている。視線が合うと、彼が微笑んだ。
「キーン家では、朝は木に登るのがしきたり? 変わってるんだね」
 ダンスパーティーで出会った男だ。なぜ彼がこんな所に。私は、自分の体が彼の腕におさまっていることに気づいてハッとする。
「お、おまえ……放せ!」
「おまえじゃなく、ミカエルだよ」
「名前なんて聞いてない。放せ」
 私は彼の腕から逃れようともがいた。そうこうしているうちに、母が車椅子を動かし、こちらに来る。彼女は不思議そうにミカエルを見上げた。
「あの、ありがとうございました。あなたは……」
「通りすがりの者かな」
 そんなわけがない。私の家を突き止め押しかけてきたのだ。私は母に訴えかける。
「不法侵入者です。追い出しましょう」
 そのとき、細身の男が慌てた様子でこちらに駆けてくるのが見えた。
< 19 / 27 >

この作品をシェア

pagetop