ブラック研究室からドロップアウトしたら異世界で男装薬師になりました
「殿下! お待ちください」
 殿下? 私はポカンと、目の前の男を見上げる。アクアマリンの瞳に、間の抜けた顔の自身が映り込んでいた。まさか、この男は。私の思考を読み取ったように、駆けてきた男が咳払いした。彼は時代劇のごとく、大仰な口調で告げる。
「控えよ。この方はミカエル・アルドレッド様。リーゼンタールの王位を継ぐお方だぞ」
 王位? 王太子だというのか、この男が。
「まあ、あなたがミカエル様……」
 母が車椅子から降り礼をしようとするので、私は慌てる。
「母様!」
 ミカエルは母を手のひらで制した。
「立たなくてもいいよ。それより喉が渇いたから、中でお茶でも飲もう」
「なにを言っているんです。というか下ろしてください」
 私はミカエルの肩をポカポカ叩くが、びくともしない。
「母様を連れていかないと!」
「ラウル、車椅子を押してあげて」
 ラウルが素早く母に近寄り、優しく声をかけている。結局私は、抱き上げられたまま客間まで運ばれた。使用人たちは、見目麗しいミカエルにぼうっと見とれている。
 ミカエルは我関せず、アクアマリンの瞳で辺りを見回していた。
「なかなかいい家だね、手狭で」
 キーン家の屋敷を手狭と言ってのけるとは。
「あの、いい加減下ろしていただけますか」
「あ、うん」
 ミカエルは私を床に下ろす。私は彼から後ずさった。
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