お試しから始まる恋
それからまた数日後。
颯はいつも通り仕事に向かった。
仕事真面目で出世コースの颯は、周りからも慕われている。
とくに同僚の女性からはとても人気で、交際の申し込みも絶えないくらいである。
だが、いつも断っている颯。
それでも交際を申し込んでくる女性が絶えなかった。
仕事をしている颯の元に、1人の女性社員がやって来た。
「柳田さん。ちょっとお話があるのですが・・・」
颯の耳元で囁く女性。
同僚の山中なお(やまなか・なお)。
颯と同じ総有高校出身で、大学は別だったが、偶然職場で再会したのだ。
同窓会にも来ていたが、颯とは全く話はしなかった。
なおも男子からかなり人気があり、現在は島津圭吾(しまず・けいご)と言う大学時代からの同級生と交際中で結婚間近と言われている。
明るい金髪に近い色に髪を染めていて、ロングヘヤーで大きなカールをかけている。
ぱっちりした目で、可愛いタイプで、男を虜にするタイプの女性である。
なおに呼び出され、仕事の手を止めて颯は自販機のある休憩所へ向かった。
「なんだ? 話しって」
なおは颯を上目遣いで見つめた。
この上目遣いの視線は、男はドキッとしてしまうだろう。
しかし、颯はあまり反応していないようだ。
「ねぇ、柳田君って付き合っている人いるの? 」
「はぁ? そんな話しなのか? 」
「休憩中だったら、他の人もいるし。いつもランチは1人で過ごしているじゃない? こうやって呼び出さないと、2人きりになれないから。ごめんね、仕事中に」
潤んだ目を向けて、色っぽい目を向けるなお。
颯はシレっとしている。
「あのね、私。検察局に彼が務めているでしょう? だからね、この前、彼を迎えに行った時に見ちゃったの。柳田君が、男みたいな女の人を抱きしめている所」