お試しから始まる恋
 と、言いながら、なおはスマホの写真を見せた。

 そこには冬子を抱きしめている颯が写っていた。

 
 写真なんかとっているなんて、どうゆうつもりなんだ?

 颯はそう思ったが、特に顔色を変えることなく平然としている。
 


「これ、柳田君でしょう? それから、相手の人って、早杉さんじゃない? 同窓会で、見た時と同じだから判ったわ」

「それが何なんだ? 」

 特に動揺もしない颯に、なおは口元でニヤリを笑いを浮かべた。

「知ってる? 早杉さん、実は死んでいるって同窓会で言っていた人がいるの」

「はぁ? 」

 平然としていた颯が、少しだけ顔色を変えたのを見て、なおはまたニヤリと笑った。



「証拠の写真もあるの。・・・知りたい? 」


 颯は視線を反らして少し考えた。

 そんな颯を見て、なおはほくそ笑んだ。


「早杉さん。高校2年生の時、一ケ月休んでいたでしょう? その時、実は死んだんじゃないかって言っていたわよ」


 颯は冬子の顔を思い出した。


 眼鏡をかけた冬子は、高校生の時のままに見えた。


 眼鏡を外した冬子は、見違えるほど別人に見えた。


 だが、いつもマスクをしていた冬子の素顔を見た人はいなかった。

 もちろん颯も同じだった。


 死んでいる?

 そんなわけ、あるはずないだろう?


 颯は自分に言い聞かせた。

「ねぇ、今夜時間くれない? ちゃんと写真見せてあげる。写真を見れば、柳田君も絶対納得するわ」

 写真・・・?

 本当にそんなものがあるのか?


 颯は疑惑を持ちながらも、確かめたい気持ちが込みあがって来た。


「わかった。そこまで言うなら、時間を作る」

「そうこなくちゃね。じゃあ、18時に、駅前カフェで待っているから」


 ちいさなメモを颯に渡して、なおは上機嫌で去って行った。

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