お試しから始まる恋

(お試しで構いませんから・・・)


 そう言った冬子は、とても素直な表情をしていた。

 キスをしたときも、とても素直で綺麗な顔をしていた。

 抱かれている冬子はとても幸せそうな顔をしていた。

 どこにも嘘は感じられなかった。

 
 同窓会で冬子と再会して、颯は胸がいっぱいになった。




 颯が冬子に恋をしたのは、高校2年生の秋だった。


 マスクをしていつも大きなメガネで俯いている冬子だったが、颯が判らない所を教えて欲しいと頼むと何も言わずにノートに書いて教えてくれた。

 その姿が健気で、颯の胸がキュンとなった。


 卒業を控えて、気持ちを伝えようとした颯だったが、冬子は逃げてしまった。

 それ以来ずっと会えないままで、同窓会で再会した冬子。


「・・・絶対に、お前を危険なめに合わせたりしないから・・・」

 颯はギュッと携帯電話を握りしめた。

「今度お前に会ったら、ちゃんと言う。俺の本当の気持ちを・・・」

 
 




 それから数日後。


 なおは検察局の前に来た。

 彼に会って本当の気持ちを聞き出す為に、待ち伏せしていなお。


 すると、前方から冬子が歩いてきた。

 今日はグレーのスーツを着ている冬子。

 相変わらず大きな眼鏡をかけていて、大柄の冬子は男性的に見える。

 
 可愛いワンピースを着て、かかとの高いヒールを履いているなおとは大違いである。



 冬子が歩いてくると、なおが近づいてきた。


「早杉さん」

 なおが声をかけると、冬子は立ち止った。


「早杉さん。私の事覚えている? 」

 挑戦的な目をして、なおは冬子を見た。

 冬子は、なおを見て思い出しているようだ。
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