お試しから始まる恋

 ホテル街でまさか冬子に会うとは、思わなかった。

 
 1人でいた冬子は、誰かときている様子はなかった。


 疾風と目と目が合うと、瞳が悲しそうだったのを感じた。


 フッとため息をついて、颯はネクタイを緩め、携帯電話を見た。


 冬子からの折り返しの電話も、メールの返信も来ていない。


「やっぱり、あんな言い方するんじゃなかった・・・」

 颯は後悔していた。

 それは、冬子に「お試しでいいから」と言った事だ。

 本当は本気で想いを告げたかった颯。

 だが、冬子はとても怯えていて、抱きしめただけでも震えるくらいだった。

 途中で気を失ってしまうくらい動揺している冬子を見ていると、とても辛くなった。

 だから颯は「お試しでいいから」とつい言ってしまったのだ。


 そっと、颯は自分の手を見つめた。

「見かけより、冬子はずっと華奢だったなぁ・・・」

 初めての夜。

 見かけはがっしりして見える冬子だったが、服を脱いでみると、とてもほっそりしていていた。

 パンツスーツ姿の冬子は、背も高く男性的に見えた。

 だが、服を脱いだ冬子はガラスのように繊細で、可憐な女性だった。


 
 思い出すだけで、颯は胸がキュンとした。


「冬子・・・ごめん・・・」

 目をとして、颯は謝った。

 
 すると携帯電話のヴァイブが鳴った。



 着信を見て、電話に出る颯。



「もしもし・・・。あ・・・うん・・・。え?  それって・・・じゃあ、あの時見たのは・・・。うん・・・ ・・・分かった・・・有難う・・・」


 電話を切って、一息つくと颯は天井を見上げた。





 



 


 
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