お試しから始まる恋
「父さん、すみませんわざわざ来てもらって」


「いや、構わん。無事でよかったな」


 颯と父が話していると、楓子が駆けてきた。


「あの・・・」


 父は楓子を見た。


「すみません。私、刑事課の早杉と申します。今回は、大切なご子息様を巻き込んでしまい、申し訳ございませんでした」


 丁寧に頭を下げる楓子を、父は優しい目で見ている。


「貴女が早杉さんでしたか。想像以上に素敵な方で、驚きました」

「え? 」


 楓子が驚いてキョンとしていると、父はそっと微笑んだ。


「颯から聞いています、貴女の事は。結婚したい人がいるとね」

「け、結婚? とんでもございません! 私は・・・そんな・・・」


 動揺して俯いてしまう楓子に、父は歩み寄り、そっと肩に手を置いた。


「とても立派な方ですから、私は反対しません。颯が養子に行ってもいいと言っているくらいですから」

「な、何言っているんですか? そんな事・・・。私・・・颯さんを騙していたので・・・」


「騙していませんよ。颯は全部、気づいていましたから」

「え? 」


「何か、貴女が重い秘密を1人で背負っているようだと言って。私にも、相談してきてましたよ」


 おそるおそる、楓子は颯を見た。


 颯は楓子と目が合うと、そっと微笑んだ。


「あとは、2人で話して下さい。私は、いつでも歓迎しますから」

 そう言って父はその場から去って行った。



 2人きりになると、楓子は何を話したらいいのか判らず俯いた。


 ゆっくりと颯が歩み寄ってくる。

「楓子。・・・ごめん、あの初めての日の夜。お前のジャケット脱がせたとき、手帳が落ちてきたんだ。その時、手帳が開いたから見てしまったんだ。検察局で働いているって、勘違いされても不思議じゃないよな。警察局と検察局は隣同士だから」

 
 知っていて・・・私の事を愛しているって言ってくれたの?

 ずっと冬子って呼んでいたのに?

 少し複雑そうな表情をして、楓子は颯を見た。







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