お試しから始まる恋


「あのさ、俺。実は、父さんの家業を継ごうと思っているんだ」

「え? お父さんって、弁護士ですよね? 」

「ああ。俺、一応法学部出ているんだけど。司法試験には1回落ちてるんだ。俺には無理なのかな? って思ってあきらめて、商社に就職したけど。今回の事で、俺はやっぱり父さんと同じ仕事に就きたいって思えてきたんだ。だから、商社を辞めてもう一度司法試験に挑戦しようと思っている」

「それは素敵ですね。・・・」

「楓子、傍で応援してくれるか? 」

「勿論です。・・・でも・・・それじゃあ、私が働かなくては。産まれてくる子供の為にも」

「心配するな。貯金は驚くほどしてある。俺が10年働かなくても、生活には困らないよ」


 10年働かなくても困らない? 

 どれだけ貯金しているの?


 楓子は驚いた目をした。


 そんな楓子の鼻を、颯はギュッとつまんだ。


「痛いです・・・」

「信じられない顔してたから。現実だって、分かったか? 」

「は、はい・・・」


「何も心配しなくていい。楓子は、家にいて俺の傍にいてくれればいい。そして、産まれてくる子供を、しっかり守ってくれればいい」

「はい・・・そうします・・・」


 素直に答える楓子。

 冷たい空気だった和室が、なんだか暖かな空気に包まれてゆくようだ。


 

 



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