俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
夕陽が沈んだばかりの紺色の街並みが見渡せ、夜の訪れを感じる。
「夜景もきれいだけど、これから夜になるっていう景色もこんなにきれいなんだ……知らなかった」
窓の外を眺めながら呟くと、隣の涼真も「きれいだよね」とうなずいた。
「明かりが少しずつ灯りはじめて、人々の息遣いを感じる。俺、結構この瞬間好きなんだよ」
「うん……私も、好き」
静けさがあるのに、どこか人の気配を感じさせるこの瞬間。運転している涼真の顔がいい顔をしているから余計に景色は特別なものになり、彼のこともさらに好きになりそうだ。
「よし、着いた」
それからしばらくドライブを楽しんだあと、一軒の古民家へと車を停めた。
小さな看板にはほのかな明かりが灯り、ひっそりと静かに佇んでいる。奥まった場所にあり、雑誌やテレビなどでも目にしたことがないお店。
「こんなお店も知ってるんだ」
「ここね、グルメ雑誌には出てないけど、出来たばっかりのときに建築系の雑誌で出てたんだよ。古民家改装みたいな特集で」
一見では入りにくい、固く閉じられた引き戸をなんなく開けると、中へ入っていく。
「すみません、さっき予約した広瀬なんですけど」
「お久しぶりです。どうぞ、ご案内します」
艶やかな黒髪を一つにまとめた女将さんらしき人が、にっこりと品よく微笑んで中へ促してくれる。
「覚えられてるんだね」
前を歩く女将さんに聞こえないくらいの声で涼真に話しかける。
「ここの造りが好きで、何回かひとりで来たんだよね。そのときに大将と女将さんがいろいろ話しかけてくれたから、それで覚えてくれてたのかも」
くすぐったそうに言うと、今度は「百音のことも覚えたかもね」といたずらっ子のように笑った。