俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛


「こちらの席でどうぞ。ご注文はのちほどうかがいますね」

女将さんは丁寧に頭をさげると、静かに立ち去った。

「これがドリンクのメニューかな。お酒、うまいのいっぱいあるんだよ。これとか、すごくおいしかった。こっちのはちょっと辛口だけど、料理に合うと思うよ」

お酒の名前が書かれたメニューを指差しながら勧めてくれる。

「あ、でもいいよ。お酒は……涼真は飲めないんだし」

「俺はウーロン茶で平気。会社の飲みでも飲まないことあるし、素面でも普通に酔った人のテンションに合わせられるからね。それより、今日は百音に飲んでもらいたいんだ」

メニューから顔をあげると、涼真と視線が絡み合う。

「この前みたいに酔っぱらってほしいんじゃないよ。飲んで忘れたいときってあると思うから」

少しだけ細められた瞳は優しく、穏やかな口調に思わず泣きそうになった。

涼真は私が上崎さんの言葉を気にしているのを察して、お酒を勧めてくれていたんだ。

「ありがとう……じゃあ、ちょっとだけ飲ませてもらうね」

選んだのは涼真が一番好きだと言う日本酒。フルーティーで飲みやすく、コクもあって料理にもピッタリだった。

お刺身は新鮮でさわらの西京焼きや野菜の炊き合わせもちょうどいい味で、どれもおいしくて次々にメニューを頼んでしまう。

「ごちそうさま。すっごくおいしかった。つい食べ過ぎちゃって、苦しいくらい」

お店を出ると、ごちそうしてくれた涼真に頭を下げる。お腹をさすると、張り裂けそうなくらい膨れていた。

「食べ過ぎちゃうでしょ。俺も最初は建物目当てで来たんだけど、まさか料理がこんなにおいしいと思わなくてさ。それで、何回も通うことになったんだよね」

ほろ酔い気分で車に乗り込むころには、すっかり上崎さんから言われたウワサのことはどうでもよくなっていた。


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