私は視えない。僕は話せない。
 暗い暗い、何より暗い意識の底。
 海底より深く、闇より暗い、誰にも触れられない底の底。

 誰に声をかけられるでもなく、誰に触れられるでもなく、意識はただ、どこかを自由に浮遊している。

 これは、僕の意識なのか?
 夢か幻か、あるいは誰か他人の心か?
 どちらでもなく、また新しい生命の芽か?

 答えは分からない。
 意識的に動けず――いや、意識すらも怪しい摩訶不思議な感覚があるばかりだ。
 誰かそこにいるなら、何かそこにあるなら、何だって構わない、教えてくれ。
 僕は、どこに行けば――

 僕は何をすればいい?

――……さん――

 誰かの声が聞こえる。
 懐かしいのか新しいのか分からないけれど、優しい声。

――たくやさん――

 人の名前を呼ぶ声が聞こえる。
 それは確かに、僕の名前だ。

――うぅ……――

 誰かの嗚咽が聞こえる。
 僕の手を強く握って離さない誰かの、消え入るように小さな声。
< 36 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop