闇に溺れた天使にキスを。



誰もいないことをもう一度確認して、思い切って自分から電話をかける。

数回のコールの後。
彼が電話を取ったのがわかった。



途端に緊張してしまう。


「あ、あの……白野です」

なんて言えばいいのかわからなくて、とりあえず自分の名前を言うと。

少し間が空いてから彼が口を開いた。


『……白野さん』


電話越しに、彼が私の名前を呼ぶ。

彼の優しい声音が耳に届き、本当に無事なのだと心から安心することができた。


「神田くん…!」
『…………』


思わず上ずった声で、神田くんの名前を呼んでしまったからだろうか。

彼は私の名前を呼んだだけで、黙ってしまう。


「えっと…ごめんなさい」

きっと私の勢いに引いてしまったのだ。
そう考えると恥ずかしくて、素直に謝ったけれど。


『どうして白野さんが謝るの?』

どうやら、引いたわけではなさそうだ。

< 156 / 530 >

この作品をシェア

pagetop