インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
……なんだ、電話の相手はやっぱり谷口さんか。

そんなに谷口さんが好きなら、私のところへ来なくても谷口さんに会いに行けばいいじゃないか。

尚史は私が眠っていると思い込んで、私に隠れてこそこそ電話して、私が何も知らないと思って谷口さんと二人で会うんだ。

婚約者の私に隠れてこっそり会うなんて、これは俗に言う二股というやつなのでは?

尚史も八坂さんと同じなんだと思うと、やっぱり胸がモヤモヤして、なぜか悲しくて涙が溢れた。

「うん、じゃあそれでよろしく」

尚史が電話を切ってこちらを振り返ろうとしたので、私は壁の方に向かってあわてて寝返りを打ち、溢れ出る涙を隠そうと掛け布団に顔をうずめた。

「……モモ?起きてるのか?」

尚史の問いかけには答えず、込み上げる嗚咽をなんとか抑えようとした。

どうして涙が出るのか、何がそんなに悲しいのか。

自分でもわからないけれど、どんなに止めようとしても涙は止まらず、さっきまで痛くてどうしようもなかった胃よりも、胸の方が痛んだ。

この張り裂けんばかりの胸の痛みはなんなんだ?

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