インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
忘れたい過去なのであれば忘れてしまえばいいのに、尚史はなぜ忘れようとしないのか。

私が気にしないふりをしているんだから、せめて忘れたふりをしてくれればいいものを、どうして尚史は『俺は犠牲者』とでも言いたげにつらそうな顔をしているのかと思うと、だんだん苛立ってきた。

どちらかと言えば、私の方が水野さんに八つ当たりされた被害者だ。

このままうやむやにしてほとぼりが冷めるのを待つべきか、水野さんとそんな関係になった経緯を、ネチネチとしつこく根掘り葉掘り聞き出すべきか考えていると、尚史がまたゆっくりと箸を動かし始めた。

「俺もキヨに教えてもらおうかな……オムライスの作り方」

「なんで?」

「キヨよりうまくオムライスが作れるようになったら、モモは俺とずっと一緒にいてくれるかなーって……」

さすがの私もこの言葉にはムカついた。

それはあれか?

餌付けをしておかないと私は尚史のそばからいなくなるとか、そういうことか?

私はその言葉に返事もせず、急いでオムライスを掻き込んだ。

すごい勢いでオムライスを口に運ぶ私を見て、尚史はポカンとしている。

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