インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
課長は苛立たしげに指先でマウスをカチカチ叩きながら、データ入力を盛大にミスした者が誰なのかを確認して、皿のように目を見開いた次の瞬間、がっくりと肩を落とした。

「川村……とんでもない置き土産をしていきやがったな……」

川村さんは『仕事の鬼』と呼ばれ、うちの課の主任を務めていた勤続14年目のベテラン社員だ。

なぜ過去形なのかと言うと、長く厳しい婚活の末掴んだ『結婚』という女の幸せをゲットして、先月末で寿退社をキメたので、今はもうこの会社にはいない。

他のデータを確認していた課長が、今度は立ち上がって髪をグシャグシャと掻き乱した。

「あーっ!!横山商事のデータも一行ずつズレてんじゃねーか!なんじゃこりゃあ!!こんなもん先方に渡せるか!!これも川村か!!」

課長が発狂するのも無理はない。

横山商事も大口の取引先だ。

もしみなと物産、みらい物産、横山商事の3社から取引を中止されたら、うちの会社の業績は大幅に赤字に転落することは免れないだろう。

それにしても、社内の誰よりも早く正確にデータ入力をこなすことで有名だったあの川村主任が、いくら会社名が似ているとは言え別の会社のデータを入力するとか、入力箇所がズレているとか、そんな初歩的なミスに1か月も気付かなかったなんて考えられない。

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