W Love ダブルラブ~イケメン双子に翻弄されて~
「君たちは…」

涼月がやっと帰ってほっとしていると前澤副社長が心配そうに言い掛けたところで、まるでその先を言わせないように梗月が言った。

「お騒がせしました、前澤さん。業務が残っているので失礼します。さ、静香くん行くよ」

静香の腕を取り挨拶もそこそこに副社長室を出た。
何か言いたげな前澤副社長を残して…。
副社長秘書の東山さんは、先程の会話を聞いてたかもしれない。でも、さすがは優秀な秘書だけあってなにも言わず顔色も変えずに二人に会釈して見送ってくれた。
社長室に入ると気まずくなって慌てて梗月から離れた。

「あ、あの、私業務をほっぽり出しちゃったから仕事しないと!今日は申し訳ありませんでした!」

梗月に向かってもう一度謝って頭を下げた。

「そうだね…来週に回せるものは回して今日中にしないといけないものだけにして残業はしないように。帰り、少し話があるから」

ため息をついてそう言うと、下を向いたままの静香の頭をポンポンと叩いて奥へ入って行った。
触れられた頭を押さえながらその後ろ姿を見送ると、はっと我にかえって、仕事に取りかかった。

やっぱり残業になって今は7時過ぎ。
梗月は待っていてくれて終わったら部屋に来るようにと言われている。
ドアをノックして中へ入る。
照明を暗くして窓の傍に立って外を眺めていた梗月に近寄り声をかけた。

「遅くなってすいません」

ゆっくり振り向いた梗月は外の明かりに照らされ憂いを含んだ微笑みを浮かべて静香を見下ろす。
静香は色気のあるその顔をドキドキしながら見とれていた。

「今日はすまなかったね…。涼の我が儘を聞いてもらって助かるよ。あいつは言い出したら聞かなくて…」

「いいえ、明日から二日間お付き合いすれば満足するでしょう。その間に説得しようと思います。…結婚の事」

「…そのことなんだが、…静香くん、前向きに考えてみてくれないか?」

「えっ?」

信じられない思いで呆然と固まってしまった。
梗月は目を伏せ身体ごと窓へ向けて外を見ながら話し出す。

「涼は、ああ見えて傷つきやすいんだ。昔から僕たちは見間違わられ、どちらでもいいと言われ、誰も僕たちを個人として認めてはくれなかった。君は、そんな僕たちを見分け、別人だと言ってくれた。君が涼の傍に居てくれたら安心だ。」

「…梗月さんは?梗月さんだって傷ついてるはずです…」

なぜ、そんなことを言うの?

声がかすれ言葉が最後まで出ず、梗月の横顔を一心に見つめる。
憂い顔がますます影を作り、伏せたまつ毛が揺れる。

「僕は…、いいんだ。涼から奪ってしまったものを返さなきゃいけない。」

「奪ったもの…?」

「それに、僕は一生結婚しない。涼月は我が儘な奴だが君を大事にしてくれるはず…。」

また静香の顔を見た梗月が言葉に詰まった。
一歩静香に近づき頬に触れる。

「今日は、泣いてばかりだね…。泣かせてるのは僕のせい?」

流れる涙を梗月の手が受け止め拭う。

なんて言っていいのかわからない。
梗月さんはなぜ結婚しないと言い、私に涼月さんを進めるのか…。

頭の中がぐちゃぐちゃでひと言も言葉が出ずに梗月をただ揺れる瞳で見つめるだけだった。

その後は、二人とも無言のまま帰宅し、自宅へ帰るとどっと疲れが出て、力尽きたようにベットに倒れこんだ。

私は、振られたことになるんだろうか…。

梗月の固く閉ざされたような心を感じて目を閉じた。
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