身代わり令嬢に終わらない口づけを
「なに、こちらの都合だ。そなたは何も心配しなくてよい。リンドグレーン伯爵がこちらに着いた折には、また話すとしよう。そなたがこのカーライル公爵家に嫁ぐことは変わらない。数日ではあるが、それまでゆっくりしていてくれ」

「はい」

 その話を、レオンは終始無表情のままで聞いていた。

  ☆

 ローズが部屋を出ると同時に、レオンも退出した。緊張から解放されてふう、とため息をついたローズは、そのため息が一つでなかったことに気づいた。そ、と隣を見ると、レオンも仏頂面でローズを見下ろしている。

「あの……」

「なんだ」

 その声には、なぜかいら立ちがふくまれていた。なにか自分が怒らせるような発言をしただろうか、とローズは先ほどの会話を思い返すがこれといって心当たりはない。

 それ以上聞くこともなく、ローズは、いえ、と小さく答えると逃げるようにその場をあとにした。

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