身代わり令嬢に終わらない口づけを
「お呼びですか、お父様」

 服を着替えたベアトリスが部屋に入ると、リンドグレーン伯爵が机から立ち上がった。なにやら機嫌がよさそうな表情だ。

「来たか。ベアトリス」

「至急とのことですが、何かありましたか?」

「うむ。なに、案ずるな。いい話だぞ」

 不安そうなベアトリスにソファに座るように勧めながら、伯爵もその正面に座った。

 伯爵令嬢に相応しいしとやかな仕草と笑顔で腰を下ろすベアトリスにローズは、

(いつもその調子ならいいのに)

 と気づかれないようにため息をつく。

「実はな、お前の結婚が決まったぞ」

「……なんですって? 聞き間違えたようですわ。お父様、もう一度おっしゃって?」

「お前の、結婚が、決まった、と、言ったのだ。あれは嫌これは嫌というお前の気持ちを尊重してきたが、もうそろそろ限界だ。だからこちらで相手を決めた」

 それで晴れ晴れとした顔をしていたのか、とローズは伯爵の心情を察した。

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