身代わり令嬢に終わらない口づけを
 二人いた姉は、とっくにそれぞれ名のある家に嫁ぎ、跡継ぎとなる兄にはもう子供すら生まれている。だが歳の離れた末娘は家族中に甘やかされ、もとい、可愛がられていたために、伯爵も離れがたかったのだろう。伯爵が選んでくる相手をベアトリスがことごとくダメ出しをしても、なんとなく聞き入れてきたのだ。今までは。

 だが、ベアトリスはもう二十歳になった。そろそろ独身では外聞が悪い歳ごろだ。

「聞いて驚け。相手はなんと王都の貴族で……」

「お断りします」

 父の話をぶった切って、ベアトリスは言った。それも予期していた伯爵は、ベアトリスの言葉など気にせずに続ける。

「もう、決まったことだ。二週間後には結婚式を行う」

「に……二週間後?!」

 さすがにこれには、ローズも目を丸くした。あまりに早すぎる。

 ぐりんと鬼の形相で自分の方を振り向いたベアトリスに、ローズはぶんぶんと首を振った。ローズも全く知らなかった。
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