身代わり令嬢に終わらない口づけを
「いえ、とてもおいしいです」

「そうか」

 心底、ほ、とした様子を見て、ローズはおかしくなる。

(不器用なだけで、ちゃんとこっちの話を聞いて、私を見てくれる。いい人だわ)

 ちらり、とレオンは音楽を奏でている楽師を見て、何かを考えているようだった。

(あの執事の言ったように、ダンスに誘うつもりなのかしら)

 見ていると、眉間にしわを寄せて考えこんでいたレオンは、今度は空を見上げてから、ためらいがちにローズに言った。


「少しワインに酔ったようだ。庭の散策につきあってくれないか?」
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